「この瞬間、新しいカルチャーが生まれた」 無観客配信ライブ『東方NEO POP STANDARD』ライブレポート

3/21開催、『東方NEO POP STANDARD』ライブレポート:前編

 博麗神社例大祭の前日には、必ずライブがある。それは、音楽によって神を迎える神事だからだ。

 各ジャンルからサークルが集結し、いくつものイベントが開催されることも、もう定番となっている。神事の前には、全国から氏子が集まるもので、どの宴も大いに盛り上がるわけだ。

 

 今年の例大祭でも、例年通りいくつかの音楽イベントが予定されていた。その一つがこの「東方NEO POP STANDARD」だ。石鹸屋、森羅万象のような広い人気があるサークルを、はにーぽけっと、ナイフといった実力派サークルが迎え撃つ。その首元を、Hungry Tigerやサンライズハイスクールといった新進気鋭のサークルが、イベントを喰ってやろうと虎視眈々と狙っている。

 そんなフェスらしいラインナップは、2月の告知があってから東方アレンジファンの話題を誘った。チケットもめっちゃ売れた(もちろん僕も買った)。当日のroxyには東方アレンジファンでごった返すんだろうなーと想像できた。

 

 しかし、世の中の状況は変化していく。COVID-19が猛威を振るい、その影響としてイベントが次々に中止になっていった。

 そして、それは例大祭にも影響が及んだ

 それを受けて、各ライブイベントも対応を余儀なくされた。

 

 そのような中、「東方NEO POP STANDARD」が取った選択は”無観客配信ライブ”であった。

 

 もちろん、元々配信を予定していたわけではない。「この時期にこの場所でしかできない最高のライブをするため」の大きな決断だった。

 

記録するために、今、ここに居る。

 

 

 僕が書く経緯をどこまで書いていいのだろうか。

 

 こんなことになるずっと前、僕は「例大祭前日にあるライブのレポートを書きたいんです」と、東方我楽多叢誌に打診をしていた。

 当日に向けて僕は準備を進めていた。しかし、ライブは無観客配信ライブとなった。

 

 無観客なのだから、当然ライブレポートも書けないなと無念に思っていると、我楽多叢誌から連絡があった。

『以前お話を頂いていた、無観客配信ライブのレポートを書きませんか?』
「はい、配信を見てのレポートということですか?」
『いえ。現地で見て、書いていただこうと思っています』

 

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 どういうことなのか。無観客の中、僕はライブハウスに入っていいのか?どうやって入るのか?あと、無観客配信ライブのレポートってなんだ?

 

 

 このライブでいったい何が起こるのか。配信ライブとはどういうライブになるのか。

 僕は、それを記録するために、今、ここに居る。

 

いつもと同じライブ、いつもと違うライブ

 ライブのリハーサルは、いつもと変わらずに行われる。一つ一つ音を作り、モニタースピーカーの音をチェックする。今作っている音はフロア用であり、そのまま配信に使われるわけではない。だけども、サークル達は、ライブハウスのPA達は6サークル分丁寧に音作りをしていく。

 

 だってそう。これから”ライブ”が行われるんだ。

 

 いつも通り行われる準備だが、いつもと違うことが一つ。配信用の機材だ。いくつもの机に並べられたPCやミキサー、そして幾本も立てられたビデオカメラ。これが”いつものライブ”と違うことを意識させる。

 

 リハのさなか、完成した音をドカーンと聴いた。ああ、これをギチギチのフロアで汗まみれで聴きてえ。そんな思いが無いと言われれば嘘になる。正直、配信ライブというものの力を。まだ、信じていなかった。本当に楽しいのか?しかたがない代わりではないのだろうか?失礼とは思いつつ、そんな不安を抱いていた。

 

 ライブハウスの受付を見ても寂しさを感じる。今日、このライブハウスに受付をする人はだれもいない。

 

 開場前の配信ページには、すでに200人を超す人が待機していた。コメント欄ではキャノンボールの話で盛り上がっている。開演前話すことといえば、ソシャゲの話だ。こういうところは、生でも配信でも変わらない。

 

 いよいよ配信ページが開場。まるで、本当にライブに来るように、待ちきれなかった人が一気に入場。コメントが大いに賑わい始める。

 A-Oneや狐夢想屋からの応援コメントもあった。東方アレンジサークル全体が、このライブの成功を願っている。

オープニングトークでは、がらんどうのフロアをみた石鹸屋hellnian、はにーぽけっとあきが「こっからライブ始まるんだよなぁ」「いつも見に来てくれる人の力を感じますね」
と不安を語る。

 

 ライブが始まる前に視聴者は1000人を超えた。1000人、それは会場である静岡ROXYのキャパシティより多い。その数字は期せずして川崎クラブチッタの1階フロアのキャパシティだった。チッタを埋めるということ、それは東方ライブにとって特別な意味を持つ。

 

 最初の不安はどこへやら。僕はこれから始まるライブへの興奮が収まらなくなっていた。

 そして、神事は、始まった。

 

 

秘封倶楽部への感情を重ねて ~ナイフ~

Ba.ワニ 

https://twitter.com/Sally_WANI

Vo.コアラ 

https://twitter.com/koala_vocal

 ライブは秘封倶楽部をイメージした曲である「テレパシー」から始まる。ボーカルの美しい声が、荘厳なメロディーと共に響く。

 秘封オンリーライブにも参戦経験があり、秘封倶楽部の曲を中心に活動しているという彼らの言葉に、偽りはない。1曲めから濃厚な秘封をぶつけてくる。

 「テレパシー」は全編を通して、ボーカルのソロパートになっている。慣れない形式のライブの1番手、プレッシャーは当然あったはずだ。しかし、Vo.コアラはその重圧を跳ね除け、ごまかしの効かない壮大なバラードを歌いきった。

MCではメンバー紹介。ステージ左手にBa.ワニ、中央にVo.コアラという2人編成だ。

 続く曲は、姉妹サークルである“monochrome-coat”からのカバー曲「4」。 G Freeアレンジの、重たいロックナンバーだ。Ba.ワニの重厚なベースラインが体を震わせる。ライブの盛り上がりを表すようにコメントもにぎわう。そのなかでハングル文字や繁体字のコメントもあった。つまり、このライブを世界中の東方ファンが見ている証に他ならない。

 

 だんだんこのライブの凄さを実感してきたところで、3曲目「錠剤」。12月の冬コミでリリースされた新曲だ。

 ノリの良いこの曲に合わせて、フロアの手も上がる。フロア?は誰も居ないはずじゃ。そう、「はい!はい!はい!」というコメントによって、みんなが手をあげているのだ。

 

 ナイフの曲の良さはノリの良さだけではない。少しビターな歌詞も魅力だ。ワニが綴る歌詞は、簡単に二人をハッピーエンドにしてくれない。

偽りの優しさで 飲み込めた 錠剤

ありがとうって言えて幸せ

錠剤の正体を恐ろしく感じてしまう。一体どんな薬なのだろうか。

 

 そんな曲を創っている、Ba.ワニ。この日に向けてお茶を毎日飲んで、気持ちを高めてきたという。あの「亡くなったワニ」についても、自分は命があってよかったとも語る。可愛い。みんな、ワニさんのことが 大好きになった。

 

 MC中に、みんなにやってほしいとダンスの練習が始まる。手を上げ前後に揺らす妖しい動きは、さっそくイントロから始まる。

 始まった曲は「媚薬」。この動きを画面の前でみんなでやっていると思うと、だいぶシュールで宗教じみているが、それもまた秘封倶楽部らしいかもしれない。

 妖しさはダンスだけではない。メロディも照明も歌詞も、そもそも曲名だって、全部が妖しい雰囲気をまとっている。

 

 続く曲は「願いごとライナー」。ポップなメロディでさっきまでのアダルティな空気を変えていく。

 間奏では「​ららんららんらーんららん」とコメントで大合唱。

「ら」がゲシュタルト崩壊するするくらい溢れたコメント欄は、みんなも初めての経験だっただろう。

 

 最後の曲となる「Story」は秘封倶楽部をイメージしたオリジナルソング。東方ライブにおいて、イメージソングを歌うということ自体が、強い感情をもっていなければできないことだ。イメージソングは、いうなればアレンジではなくオリジナルだから、東方ライブで演奏することは批判を受ける可能性がある。

 それでも、このライブで、最後に、絶対に、演奏したい曲がある。そんなナイフの強い想いを曲に乗せる。

 

 ここまで、ナイフが演奏してきた6曲はすべて秘封倶楽部にまつわる曲であり、そのすべてのアルバムのジャケット絵は、秘封倶楽部となっている。恐るべし。秘封倶楽部の曲を中心に活動しているという彼らの言葉に偽りはない。

 

 

 画面の前のみんなは、早くも1サークル目で配信ライブを満喫しているようだ。すごい順応力だと驚いていたけれど、それは当然のことなんだろう。だってコメントで遊ぶのは、ニコニコ動画でずっとやってきたことだから。東方とニコニコ動画に強い結びつきを考えるなら、ここにいるみんながコメントで盛り上がることができるのも納得だ。

セットリスト

1. テレパシーorchestramix
2. 4(姉妹サークルmonochrome-coat cover.)
3. 錠剤
4. 媚薬
5. 願いごとライナー
6. Story

 

そうか、コメントがフロアなんだ ~Hungry Tiger~

Vo.にゃも
https://twitter.com/izayoinyamo

Vo.まにたそ
https://twitter.com/manitaso_pink

Vo.ショコラ
https://twitter.com/555hocola

Key.るしゃな
https://twitter.com/reviyatan

 ライブは「湖底Dancing Night」からスタート。トランスのノリ良いメロディにVo.まにたそ、のハッキリとしたボーカルが気持ちよく乗る。フリップでコールアンドレスポンスを煽ると、コメントはそれにバッチリついていく。

 

 Vo.ショコラにバトンタッチして続くのは「夜空に咲いた華」。のびやかに歌っていく砕月アレンジは、お祭りの今日にぴったりだ。

 サビでは、コメントの”ノシノシ”が大量発生。見たことのない人にはすぐに分からなかったかもしれないが、”ノシノシ”は匿名掲示板から生まれた言葉で、手をふることを表している。

 

 間奏では、Key.るしゃなのソロタイム。ショルダーキーボードを使ったパフォーマンスはライブならではだろう。

 

 さらにボーカルをバトンタッチして、Vo.にゃも。新曲のバラード「極彩synchronicity」でクールダウンさせる。にゃもの息遣い、伸びのある声が視聴者を魅了していく。さすが、幻想郷屈指のイケメン(感想には個人差があります)、寅丸星だ。

 

  後半戦に突入し、「ラフデイズ」で空気をアッパーにした後、Vo.しょこらもステージイン。続く曲は、初めてと語る、2人のデュエットによる「制御不能Revolution」。秋例大祭で頒布された、Hungry Tigerとしては最新作となる1曲だ。

 霊夢と魔理沙が一緒に仲良く歌っているのを嫌いな人がいるだろうか。いやいない。最高だ。トランスに寄ったポップスのような曲調は、コメントも、画面の前の体もノリよく動かしていく。

 コメントを見ると「初めて見たけどハマった」という声が。新たな出会いがあることも、こういったフェス形式のライブの良さだ。

 

 Vo.にゃも、もステージインして、ボーカルが勢揃い、そのままメンバー紹介へ。にゃも、まにたそ、しょこらと紹介されていくが、それぞれ、博麗霊夢、霧雨魔理沙、寅丸星の姿に身を包む。さらに、紹介中はそれぞれのテーマソングをKey.るしゃなが演奏。こういうところも、東方ライブであることを感じさせてくれる。

 

 最後の曲は3人で歌う「Change the world」。この宴にぴったりの佐渡の二ッ岩アレンジだ。

宴にぴったりの曲は、バンドだけの力では成り立たない。コールアンドレスポンスやシンガロング、これらを成立させるには、フロアの力だ。

 この会場のフロアには誰もいなくて、誰も居ない前で彼らは歌っている。けれど、そのかわり、コメントが、1000人を超える視聴者が、Hungry Tigerの助けとなる。彼らを支えている。そうして宴を、もっと大きくしている。

 まるで会場に居るみたいなピッタリのタイミングで、コールアンドレスポンスを送り合う。

 

 そうか、このコメントこそが、配信ライブの”フロア”なんだ。ようやく気づいた。これから先、僕はコメントや視聴者のことを”フロア”と表現しようと思う。

 

 ライブハウスがあって、演奏するバンドがいて、フロアがある。

 

 だとしたら、これは僕たちがいつも慣れ親しんでいる”ライブ”だ。代わりとか、対応した結果とか、そういうんじゃない。いつもの、楽しい楽しいライブなんだ。そのことに気づかせてくれた、そんなステージだった。

 

セットリスト

1.湖底Dancing Niget
2.夜空に咲いた華
3.極彩synchronicity
4.ラフデイズ
5.制御不能Revolution
6.Change the world

 

 

文:えふび~
撮影:羽柴実里
SupportWriting:にしかわ

 

(つづく)

「この瞬間、新しいカルチャーが生まれた」 無観客配信ライブ『東方NEO POP STANDARD』ライブレポート おわり