ユーザーによって創造される、強火の幻覚――イマジナリー饕餮という遊び(前編)

イマジナリー饕餮という遊び(前編)

鬼傑組、勁牙組、そして……

 東方鬼形獣。

 2019年8月12日に東方Project第17弾として上海アリス幻樂団より頒布された本作は、博麗霊夢、霧雨魔理沙、魂魄妖夢の三名が動物霊とタッグを組み、動物霊たちが支配する畜生界で起きた異変に立ち向かうあらすじとなっている。

 鬼形獣には地獄、そして畜生界を舞台に魅力的なキャラクターが多数登場する。その中でも一際注目を浴びたのは、畜生界を牛耳る組織の長である吉弔八千慧と驪駒早鬼の両名だろう。

 権謀術数に長ける鬼傑組の長・吉弔八千慧。本作において、霊夢たちに異変の首謀者である埴安神袿姫を打倒させようと画策したのも彼女だ。

 実力を至上とする勁牙組の長・驪駒早鬼。Extraボスとして登場する彼女は、腕っぷしを旨とする組織の長としてプレイヤーの前に立ちはだかった。

 好対照とも言える性格のふたりは、二次創作において「さきやち」というカップリング名称でもユーザーに愛されている。

 主人公たちをサポートする動物霊は、勁牙組からはオオカミ霊、鬼傑組からはカワウソ霊がそれぞれ担当しているが、ここでもう一霊、オオワシ霊の存在を忘れてはいけない。オオワシ霊は、作中では会話の端に名前が上がるのみである第三の組織・剛欲同盟からの遣いだ。作中での言及を見る限りでは「プライドは高いが実力では他の組織に劣る」と辛辣な評価を下されている剛欲同盟。その剛欲同盟の長、それこそが今回のテーマとなるキャラクター「饕餮トウテツ」である。

剛欲同盟に対する袿姫の評価。散々な言われようである。

 なお、畜生界を支配していると言及されている組織は鬼傑組、勁牙組、剛欲同盟に加えて「罠や毒、寄生、擬態、あらゆる卑怯な手段を得意とする動物霊達による正体不明の組織、等」があるとされているが、こちらは原作のおまけテキストに記載があるのみで詳細は明かされていない。

饕餮……いったいどんな妖怪なんだ……

 まず「饕餮」がそもそもどういった妖怪なのかについて触れておこう。

 饕餮は中国神話に伝わる怪物で、「トウ」は財産を、「テツ」は食物を貪る意がある。何でも食べる獣から転じて「魔を喰らう」というイメージが生まれ、後世では魔除けのシンボルとして扱われるようにもなった。

 姿形については羊の身体に人の顔を持つ羊身人面で、わきの下に目がある怪物と言われている。

 これだけ読んでもいまいちイメージが浮かびにくいが、羊要素が含まれることだけは見えてきた。

 余談だが、饕餮は竜が生んだ「生九子」の一匹であるとされ、竜から生まれたがしかし、その親である竜にはなれなかった存在でもある。竜に関連のある吉弔とは、間接的ではあるが共通点があると言えなくもない。

いつになったら出てくるんだ饕餮!?空想上の饕餮が出てきたぞ饕餮!?

 饕餮、ならびにその組織である剛欲同盟は他者の口からその存在が語られるのみで、鬼形獣では影の薄い立場となっていた。しかし、同年10月6日に黄昏フロンティアから体験版が頒布された『東方剛欲異聞 ~ 水没した沈愁地獄』のタイトルから、剛欲同盟との関連が予想され、ひいては饕餮登場に期待が高まった。

 東方剛欲異聞については、今月開催予定の第18回博麗神社例大祭にて開発元の黄昏フロンティアより完成版の頒布予定が告知された。

 ここでの頒布が実現すれば、実に東方鬼形獣で設定が公開されてから約1年半越しでの登場となる(かもしれない)饕餮。

 その正体には注目が集まるが、この記事で特集すべくは「原作の饕餮」ではない。

 鬼形獣の発表から謎に包まれ続けた剛欲同盟の長。テキストデータとしての設定だけが先に公開され、ビジュアルが一切不明という状況は、ユーザーの間である特殊な”遊び”を生み出した。それこそが、今回のメインテーマ「イマジナリー饕餮」だ。

 イマジナリー。「空想上の」という言葉から察せる通り、そこではユーザー各々による饕餮が生み出されていた。ここで、ユーザーが投稿しているイマジナリー饕餮の姿を見ていこう。

 先述したように羊の要素が原典に含まれることから、羊角をあしらったデザインは共通している。

 こうした「強火の幻覚」はどのようにして生まれていったのか。後編では、イマジナリー饕餮を創作されているサークル「東方幕府」のほおずきさんへのインタビューにて、その独特の”遊び”が持つ魅力について語ってもらう。

ユーザーによって創造される、強火の幻覚――イマジナリー饕餮という遊び(前編) おわり