コラム
2020/12/02

キャノンボールとはなんだったのか。東方二次創作に新たな風を吹き込んだ『東方キャノンボール』という作品について、あらためて考える

銅折葉氏による、『東方キャノンボール』コラム

 東方キャノンボール。2019年10月1日に配信開始され、約1年後の2020年10月14日にサービス終了となった、東方Projectの公認二次創作ソーシャルゲームである。

 それまでにないジャンル・媒体であったことから注目を集め、配信開始の約1年前となる2018年の秋季例大祭で情報が公開されて以来、公式PVの発表、リリース開始、サービス終了と、折に触れて各所で大きな反響を呼んだ。

 それらの反応は必ずしも好意的なものばかりではなかった。未知の領域に踏み出す試みに対し、ファンからは不安や拒絶感も少なくなかったことを記憶している。

 本稿では、1年間それらの声を耳にしながらゲームを追いかけてきた一ユーザーの立場から、東方キャノンボールについて振り返ってみたいと思う。

 

ボードゲームを持て余している ― 『東方キャノンボール』というゲームの構造

 

 話題を耳にしてはいても実際にプレイしていなかった方も少なくないと思われるので、まず『東方キャノンボール』についての概要を説明したい。少々回りくどくなってしまうが、後ほどこれらのシステムについても触れるためどうかご容赦いただきたい。

 本ゲームは一般的なソーシャルゲーム――ガチャを回してキャラを集め、育成し、メンバーを編成して戦い、ストーリーを進める――であると同時に、大きな特徴としてボードゲームの要素を取り入れていた。

写真提供:アンタマニド(@Antamanide)氏

 編成したメンバーをひとつのユニットとして、すごろく状のマップを移動しながら資金を稼ぎ、対戦相手を妨害しつつシンボルを買収していくシステムである。このボードゲームはゲーム内の幻想郷では「キャノンボール」と呼ばれる。

 ……ちなみにゲーム中で使われる通貨も同じくキャノンボールであり、ボードゲームではこれを稼いで神社や紅魔館などのシンボルを買収するのだが、ややこしいので以後こちらはCBと呼ぶことにする。

 

写真提供:アンタマニド(@Antamanide)氏

 ボードゲームは対戦相手と競い、最初に勝利条件(「シンボルをふたつ買収」「合計資産6000CB以上」など)を満たしたものが勝者になるシステムである(言ってしまえば桃太郎電鉄やモノポリーである)。ストーリーモードではCPUが対戦相手だが、マルチプレイ要素として通信対戦も可能であった。このときはほかのプレイヤーとマッチングし、それぞれに編成したユニットとの勝負になる。

 本ゲームのボードゲーム要素は早期から大々的にアピールされ、ゲームの特色とされていた。ゲーム内の幻想郷では「キャノンボール」が大流行の遊びであり、魔理沙の「霊夢、キャノンボールやろうぜ!」の第一声からチュートリアルが始まるのだ。

 だが、いざサービスが始まってみると、ゲーム全体がこのボードゲーム要素を持て余していることが明らかとなったのである。

 

 

シナリオとボードゲームの乖離

写真提供:アンタマニド(@Antamanide)氏

 具体例として本編ストーリー8編の「特大キャノンボールを探せ!3」を挙げたい。集めれば願いが叶うという特大キャノンボールを巡るエピソードのひとつである(ここでもまた別のキャノンボールが登場するが、深く気にせず不思議なパワーを持つアイテムだと思ってほしい)。

 霊夢と魔理沙は白玉楼に特大キャノンボールがあることを知って現地に向かう。ボールの所有者は妖夢であり、彼女はこれを漬け物石の代わりにしていた。霊夢たちは妖夢に特大キャノンボールを渡せと迫るが、妖夢はこれを拒否する。

 

 さて、こうなると次は「キャノンボールで勝負よ!私が勝ったら特大ボールを渡しなさい!」と、妖夢を対戦相手にしたボードゲームが始まる展開を想像する方も多いのではないだろうか。

 しかしそうではないのだ。確かにストーリーはいったん中断してボードゲームが始まるが、その対戦相手は妖夢ではなく村紗やにとり、アリス、鈴仙といったストーリーに一切登場しない面々なのである。ちなみにこの時点で、妖夢や冥界に関係の深い面々はすでにゲームに実装済みであった。

 このボードゲームに勝利してストーリーを再開させると、霊夢は神社にある怪しげな石を持ちだし、これを特大キャノンボールと交換しようと妖夢に持ちかける。妖夢はこれをあっさり承諾し、事態はボードゲームの勝敗とは無関係に解決してしまうのである。

 

 以上のように、ストーリーの展開はボードゲームの内容とまったくリンクしていない。このように二者が結びつかないシナリオは、特にサービス開始から数か月の初期に実装されたシナリオで顕著であった。

 以前、某ソーシャルゲームにおいてストーリーを読んでいる途中に、無関係の敵との戦闘が頻繁に挟まることを揶揄した「話の途中だがワイバーンだ!」が話題となった。

 しかしこの時期の東方キャノンボールでは、「話の途中だけどキャノンボールしましょう!」ですらなく、ストーリーと無関係なボードゲームを脈絡なく遊ばされる状況になっていたのである。

 

切っても切れない弾幕ごっこ

 

そしてもうひとつ、本作にはボードゲームの存在を危うくする要素が存在した。

 それが弾幕バトルである。強化したキャラを編成して対戦相手と戦い、相手を全滅させるかタイムアップ時に優勢だったほうが勝ちとなる、一般的なソーシャルゲームによくみられる戦闘システムだ。いわゆる闘技場システムとして、ほかのプレイヤーの編成したユニットと戦うモードが用意されていた。

 弾幕バトルでは3Dキャラを使って交互に弾幕を撃ちあうビジュアルが再現され、必殺技ゲージが溜まるとスペルカードも発動できた。従来の幻想郷における弾幕ごっことしても、ソーシャルゲームの戦闘要素としても、プレイヤーになじみ深いこの弾幕バトルがさらにボードゲームの立場を脅かしたのだ。

写真提供:アンタマニド(@Antamanide)氏

 本編ストーリー11編「特大キャノンボールを探せ!4」で特にそれが顕著である。

 特大キャノンボールを巡るエピソードの最終話となるこの話のラストでは、全ての特大キャノンボールを集めた八雲紫が暴走したボールの力を鎮めるため、自分自身を特大キャノンボールに乗っ取らせて霊夢たちに敵対する展開がある。

 一連のエピソードのラストバトルに相当するこのステージは、スタート地点の目の前に紫たちと連続で弾幕バトルをするマスが置かれているだけのマップであり、もはやサイコロを振ってシンボルを買収するボードゲームは完全に意義を失っていた。プレイヤーは「キャノンボール」をすることなく紫を弾幕バトルで負かして、この異変を解決することを求められるのである。

 

写真提供:アンタマニド(@Antamanide)氏

 もうおわかりだろう。幻想郷にまったく新しい大流行の遊びとして持ち込まれた、メインの題材であるはずのボードゲーム「キャノンボール」が、ストーリーを進めていく中では完全に邪魔者扱いをされてしまっていたのである。

 実は本作のストーリー、「キャノンボールという遊びが大流行している幻想郷」という設定はチュートリアル以外では言及されない。それどころかストーリーの大半は「キャノンボール」が遊ばれている世界観と関係なく進行するのである。前述の特大キャノンボールもストーリー上にだけ出てくる不思議な力を持つアイテムでしかなく、ボードゲーム内にはまったく登場しない。

 かといって、ストーリーを読み進めるのに作業ゲームを強いられるだけと割り切るには、ボードゲームは個性的かつ特徴的すぎた。

 ボードゲームではアリスの家をパチュリーが買収し、即座に魔理沙に盗まれたあと、アリスがそれを取り返しに向かう……という、いかにも物語性を感じさせる状況が頻繁に起きる。ボードゲームを遊ぶのはそれ単体でとても面白いのである。これを本編ストーリーと切り離し、作業として扱うのは難しいと言わざるを得なかった。

 このようにゲームシステムとソーシャルゲームとしての運営が食い違う状態が、サービス開始時から長らくの間続いていた。プレイをしていた人が一度は疑問に思った点ではないだろうか。

 

すばらしい部分もたくさんあった ― Live2D・楽曲・育成の容易さ

 一方で、注目すべき点は多数あったことについても触れなければならない。

映像提供:Shyde(@MysteriousSyhde)氏

 

映像提供:まろん(@maron8676)氏

 まず、Live2Dで提供されるキャラクターの演出である。このアニメーションは実になめらかで自然に動き、多数のボイスも相まって実に可愛らしい反応を見せてくれた。ボードゲームや弾幕バトルで使用される3Dのちびキャラもこれに負けておらず、生き生きと泣き笑い、飛び跳ね、スペルカードの発動時はカッコいい演技までこなすのである。

 さらに多数のBGMやヴォーカル曲が提供され、育成やクエストクリアボーナスなどとして入手できる楽しみや、多数の写し絵(イラスト)のコレクション要素も作品に彩りを添えていた。

 

写真提供:アンタマニド(@Antamanide)氏

 キャラクターの育成がとても簡単だったことも述べておきたい。入手こそガチャを回して引かねばならないが、育成に関しては一般的なソーシャルゲームによくある多種多様な要素を強化する必要はなく、キャラクターのレアリティを上げる素材とキャラクターのレベルを上げるポイントを集めれば容易に最高レアリティ、最大レベルの育成が可能だった。このほかに親愛度や限界突破といった強化要素も存在はしていたが、いずれもやり込み要素に近く、無視しても十分にキャラは強くなり、最高難易度のクエストをクリアすることができた。

 特にクエストスキップが実装されて以降は、1日10分ほどのプレイで次々と手持ちの星3や星4キャラを最高レアまで強化していくことが可能だった。ボードゲームと弾幕バトル、ふたつの要素が複雑に存在する中で、キャラクターのデータや強化をシンプルにまとめたのは英断だったろう。

 

サービス展開の転換点 ー イベントシナリオから成功していくストーリーとゲームの調和

写真提供:アンタマニド(@Antamanide)氏

 ストーリーとボードゲームで登場キャラクターが異なるという状況も、いつまでもそのままにされてはいなかった。その転機となったのがサービス開始から約3か月後の2019年末に開催された大型イベント「年の瀬!妖怪達の新干支レース」だった。

 物語は、子・丑・寅……の十二支に飽きた八雲紫が、新しく十三番目の干支を決めようと言い出したところから始まる。このイベントではレースにエントリーした既存キャラクターの新衣装バージョンが追加され、題材のレースに合わせてボードゲームにもレースルールが実装されるなど、大きくシステムの刷新が図られた。

 ストーリーの題材も新しい干支をレースで決めようという従来ありそうでなかったもので、その着眼点も魅力的である。「新天干地支選定競争(しんてんかんちしせんていきょうそう)」という仰々しいレースの正式名称もまた、八雲紫が主催するイベントとしていかにもそれっぽさを感じさせ、ラストのオチまで含めて幻想郷の騒がしい日常を堪能できるシナリオとなっていた。

写真提供:アンタマニド(@Antamanide)氏

 これ以降、花見や夏祭りなどを題材にしたイベントが開催されるたびに、ボードゲームにもそれに合う新ルールが追加されるなど、ストーリーとボードゲームの調和が図られるようになっていく。新規参戦キャラクターも次々と登場し、2020年春からは早苗を主人公とした第二期のメインストーリーも展開していった。

 同時に、初期のころは設定ミスや誤字などで違和感を指摘されていたシナリオ面も改善されてゆく。本作独自の視点や解釈は保ったままに興味深いストーリーやキャラクターの関係性、小ネタがふんだんに含まれた描写が増えていった。

 このころになるとプレイヤーがゲームになじんできたことも手伝って、東方キャノンボールは幻想郷の愉快な日々を描く、本作ならではの立ち位置を確立していったのである。

 

映像提供:くろくろば(@b_byte_3)氏

 ……やや余談となるが、本作はレーティングの関係から東方projectの世界に不可欠とされる要素のひとつ、アルコールに関する言及ができなかった。しかし劇中では宴会は頻繁に開かれ、賑やかに騒ぐ少女たちや飲んだくれた相手の対応に苦労する様子などが生き生きと描写されていたのである。

 これはきわめて巧妙な手法で、お酒に関する言及を慎重に避けながらも、いつもの幻想郷の雰囲気を再現することに成功している。伊吹萃香の酔っ払いモーションも、不思議なキャノンボールをぶつけられて顔が赤くふらふらしているという描写で実現された。

 実際にプレイしていても、一切「酒」という単語が出てこなかったことに気づかなかった人も少なくないのではないだろうか。

 

キャノンボールってなんなんだ

写真提供:アンタマニド(@Antamanide)氏

 ストーリーの中心として劇中の幻想郷の日常となったキャノンボール。当たり前のように少女たちはボードゲームに興じ、CBを稼いでシンボルを買収し合う。しかしこのキャノンボールが一体何なのかについてはゲーム内ではずっと語られなかった。

 その片鱗が明かされたのはサービス終了の発表とともに実装されたメインストーリーの最終盤である。キャノンボールの正体は「誰もがほしがるアイテム」であり、幻想郷における新たな価値観をもたらす存在だったのではないかという推測が行われるのだ。

 多種多様な立場にある幻想郷の少女たちが一堂に会して同じゲームに興じるためには、誰もが興味を示しほしがるものが必要となる。それこそがキャノンボールであったというわけだ。

 ややメタ的な回答であったが、幻想郷に新しい遊びを流行らせるために不可欠な存在として定義されたという設定はなかなか納得のいくものであった。

 劇中では所有者を魅了・支配したり、異変の原因となったりするパワーを秘めた特殊なキャノンボールも登場し、いくつもの事件を引き起こした。終わらない日常の中でさまざまな騒動が次々に起こる舞台設定としても、キャノンボールの設定は優れたものであったのだ。

 ここからは推測になるが、もしサービス終了がなくストーリーが続いていれば、幻想郷にキャノンボールをもたらした黒幕が登場し、その真の意図や経緯が語られる展開もあったのかもしれない。

 

写真提供:アンタマニド(@Antamanide)氏

 惜しむらくは、これらは最後までボードゲームの「キャノンボール」が幻想郷で流行している理由の裏付けにはならなかったこと、そしてボードゲームでなければ解決できないような異変が一度も起きなかったことだろう。

 一部の大型イベントを除き、ストーリーの最終決戦は弾幕バトルで行われた。

 これは幻想郷における弾幕ごっこがいかに重要な位置にあるのかを実感させられるものであったが、同時にせっかく導入したボードゲームとしての「キャノンボール」の立場をないがしろにしてしまったことは否めない。

 大々的に存在をアピールした「キャノンボール」で敵と対決し、異変を解決するシナリオがもっともっとたくさんあっても良かったのではないかと思う。

 できることなら、「乗っ取られてしまった博麗神社を時間内に奪い返せ!」や「大結界を守り抜くために拠点となる6つのシンボルを確保しろ!」などの、ボードゲームのルールを生かした幻想郷ならではの勝負をしてみたかった。これは今でも正直な感想である。

 

最後に

 さて。あれこれと語りたいことを雑多に述べてきたが、最後にメインストーリーの最終話、ラストシーンについて触れることで本稿を締めたいと思う。

 最終話の最後の場面で、冒頭のチュートリアルと同じように博麗神社にやってきた魔理沙が「霊夢、キャノンボールやろうぜ!」と呼びかける。これに対し霊夢は「キャノンボールなんかやってる場合じゃないわ! 今度こそ幻想郷の危機なのよ!」と言い放って走り出すのだ。

 それを追いかけ、魔理沙が「待てよ霊夢、置いてくなって!」と二人がキャノンボールを放り出して駆け出していく光景で、本作の物語は終わりとなる。

 これはまさに、幻想郷に新しい価値観として持ち込まれたキャノンボールが、その役割を終えて去っていくその瞬間だった。

 どのような形で評価されたとしても、東方二次創作に新たな風を吹き込んだゲームの締めとして、この描写はまさに百点満点のラストであった。

 ゲームとともに歩んだこの1年を振り返りながら、そう思うのである。

 

サークル「折葉坂三番地」 新刊情報

【秋例大祭7新刊】クロネコオーブ

『クロネコオーブ』

著:銅折葉
表紙イラスト:はいばね

今回掲載していただいた東方キャノンボールのプレイ雑感や考察を下敷きにした小説短編集です。キャノンボール劇中のストーリーや小ネタを題材に、橙の活躍を描く短編を4編収録しています。

委託ショップ:メロンブックス

 

イベント参加情報

『暴れん坊ろくろ首』

著:銅折葉
表紙イラスト:みそはぎ(きまぐれ気分)

頒布情報:
12/6(日)開催 わかさぎ姫・赤蛮奇・今泉影狼オンリー同人誌即売会『草の根妖怪大会議』
スペース「草-14」にて頒布

 

 

キャノンボールとはなんだったのか。東方二次創作に新たな風を吹き込んだ『東方キャノンボール』という作品について、あらためて考える おわり